月夜見

    “皐月の空には鯉の吹き流し”

           *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより

 
五月皐月といえばの こいのぼりのお歌の、
甍の波と雲の波…という歌詞が、
このごろの風景には
何とはなく相応(そぐ)わぬようになりつつありますね。
スレート屋根やら太陽光発電のパネルやらに飾られた屋根に、
マンションや三階建て四階建ての一戸建ても
珍しくはなくなりつつあるのが街の暮らし。
瓦自体も、昔のそれのような ぴっかぴかなのは減りつつあって、
そんな屋根の群れを見下ろす、大きな魚の吹き流しを、
大海原を泳ぐようにと見立てたなんてこと。
解説しないと判らないどころじゃあない、
教科書に載せる唱歌としてさえ扱わなくなりつつあるのだから、
何だか寂しい昭和の世代でございまし。

 “端午の節句か。”

こちら、グランド・ジパングが籍を置く お国や時代は、
まだまだ古来からの風習も大事にされており。
膝丈の着物という快活な恰好の子供らが、
広場へでも繰り出すか、わあっと歓声あげて駆け抜けた路地からも、
様々なお家が競うように揚げている鯉の群れが、
すっきりと晴れ上がった空を悠然と泳いでいるのがよくよく望めて。
こちらの御領主様はそれはそれはよく出来たお人で、
生活に困っている人はいないか、
親御と悲しい別れをしてしまった子供はいないかと、
それは細かく眸を配ってもおり。
食う寝るに不自由しないようという手配は、
恐らく日之本で一番かもしれぬとまで言われている、
お手当ての厚さなもんだから。
毎日の暮らしへ切羽詰まっている層は極力少なくて、
飛び抜けた贅沢をしたいなんてな大きなことを望まぬ限り、
住まいも食べ物も、それなりに手配してもらえての、
仕事に就くところまで、お手当てが及ぶ至れり尽くせりっぷりであり。
それでも…盗みや怪しい品の売買、
それらから派生する殺生なんてな犯罪が、
ちょろちょろと後を絶たぬのは、
人の性が貪欲に出来ているからか、それとも、

 “他所から入り込む連中が食い物にしちまうからだろな。”

空を見上げるべく、その縁をちょいと持ち上げていたまんじゅう笠、
その下から覗いた鋭い切れ長の双眸が、だがだが、
ふっと和んだように微かにたわんだのは。
大きく空いた口から その腹へ風を吸い込んで、
ゆったりとたなびき泳ぐ大きな鯉たちに、
別の面影を想起した雲水様であったから。

 『俺ァ、端午の節句に生まれたんだって。』

だからいつまでもガキみたいなんかなぁと、
自分で言って快活そうに笑ってた、
そりゃあお元気な十手持ちの親分さんを思い出したと同時、

  「      待てぇ、こんにゃろがっ!!」

想いが過ぎての幻聴か、
いやいやこれは紛れもなく、
ご本人の闊達な雄叫びに他ならぬ。
まだまだ十代というお若い身なのに、
ご城下の一角を縄張りとして預けられ、
町の人々の暮らしを見守るお務め、毎日元気にこなしておいでで。
赤い格子柄の着物に、
背中へ下げた麦ワラ帽子とそれからそれから、

 「ゴムゴムのロぉケットぉーっ!!」

悪魔の実という それはおっかない名前の実があって。
うっかり食べてしまうと、その因果のおかげ様、
呪いのせいで泳げない身となり、海や水場では溺れてしまうが、
その代わりにと何かしら特殊な能力が授かるとかで。
こちらの町の親分さんが、
子供のころに食べてしまったのは“ゴムゴムの実”だったので。
体中がゴムみたいに伸び、
鉄砲で撃たれても、どんな力持ちに殴られても、
大きな岩が落ちて来ようとも、全くの全然こたえはしない。
それどころか、そんな能力を生かしての飛んだり跳ねたりで、
凶悪な盗っ人や悪党どもを、片っ端から取っ捕まえた功績から、
それは頼もしい岡っ引きの親分としての名跡継いで、
今や押しも押されもしない凄腕の捕り物名人じゃああるのだが、

 「   あっ、待ちやがれっ!」

どんがらがっちゃん、がらごろ・ずどんどかんという、
そりゃあ凄まじい大音響と、
命ばかりはお助けと言わんばかりの
ひょええぇぇ〜〜〜っという絶叫や悲鳴のそのあとに、
そんな親分のお声が跳ねたということは、

 “誰か捕りこぼしたな。”

特にがさつだということもないのだが、
ついつい大雑把な捕り物になってしまうその捕縄から、
罪人を時に捕りこぼすこともままあって。
わあっという野次馬たちの立てる喚声の流れから、
彼らがどう動いているのかを読み取ったお坊様。
そこには見えぬはずの何物か、
視線だけを動かして追ったそれから、

 ―― しゃりんしゃん、と

右手へ握っていた錫杖を、連なる輪環を涼しく打ち鳴らしつつ、
大きく振りかざしての…ぶんっと遠くへぶん投げれば。
誰の姿もなかった路地裏の、空気ごと引き裂く勢いで翔った鉄の杖は。
その突き当たり、いやさ、
大通りへと開けた出口を越えてのお向かい、
甘いとうきび扱う卸屋が、麻袋を乾かすのに立てていた、
丸太組みの柵へと勢いよく突き立って。

 「どわっ!」

その長々とした柄の部分が、
ちょうど水平になっての“通せんぼ”の棒となったものだから。
それでなくとも、
いきなり風を切って飛んで来た物騒な何か。
突き立った丸太に深々と食い込んだほどの勢いの凄まじさは、
そのままどれほどの豪傑が投げたかを思わせたし。
余力のせいで柄のところが ぶるるんと大きく震える様は、
さながら、逆らえば今度は突き立つよという警告の如しとあって。

 「あ…あわわっ。」

自身へ突き刺さらなんだのを一縷の奇跡と思いの、
それこそこれぞ運の尽きとでも思うたのだろう。
何をやったかは知らないが、
随分と棘々しい面差しの痩せ男がその場へ尻餅をつくと、
はあ〜っと大きな吐息つき、どうやら観念したようで。

 「お、どしたんだ?」

腕まくりしていたのは、
もう一発ほど“ゴムゴムの技”を繰り出すつもりだったのか。
やっと追いついたルフィ親分、
逃げ出したはずの悪党が、何故だか座り込んでたのへと小首を傾げ、
それから…見覚えのある錫杖を見て、

 「あやや…。///////」

ちょっとばかり、頬が赤らんだのは言うまでもなかったりvv
それがこういう角度で突き立っているということは…と。
左手に当たる横町のほうへとお顔を向けて、
そちらからやって来る誰かさんの姿へ、
はうぅvvと頬が赤くなったのを…いい限(きり)に、

 「さぁて、そんじゃあ親分。
  俺っちは番所行ってこいつらのお調べ書きをまとめてやすから。」
 「おお。」

やっと追いついた下っ引きの若いのが、
何とはなく状況を読んでのことだろう、
座り込んでる賊の後ろ首を掴み上げながら、てきぱきと言い並べたのが、

 「昼は適当にどっかで済ませてくださいね。」
 「おお。」
 「それと、
  かざぐるまで今晩 店が引けた後に
  ちょっとばかし飲み会みたいなのやるそうなんで。」
 「おお。」
 「迎えには行きやすが、判りやすいとこにいてくださいね。」
 「おお。」
 「何だったら、そっちのお坊様も一緒に来てくださいな。」
 「おお。」

いや、これは親分へ言ったんじゃないんだがと。
はははと乾いた笑い方をしたウソップが、
ほら立てと逃げ損ねた賊を引っ立てて行ったのと入れ違い、
やっと間近までやって来た坊様が、

 「やぁや、奇遇だの親分。」

思い切り投げたらしい錫杖をえいと引き抜きつつの、
何とも白々しいお言いようへ、

 「お、おお。奇遇だよな、坊様。///////////////

毎度お馴染みのご挨拶から始まる、
ウソップ命名、とんだ奇遇もあったもんだのデートが、
今日は皐月晴れの空の下にて始まりそうな気配でございますvv


  ルフィ親分、お誕生日おめでとう!




   〜Fine〜  11.05.05.


  *相変わらずのウチのテイストで終わりましたが、
   何か降りて来たらば
   続きを書くかもしれないです。(そういうもんか?)
   今年は心的に落ち着けなかったようで、
   こうまでギリギリになってから、
   やっと思い出した船長さんのBDでして。
   いい季節に生まれたんだね、船長。
   カラッと晴れて
   暖かい陽が照って、いい風も吹いてて。
   子供の日ってのも頷ける、
   そんないい気候になりつつありますね。
   どうか皆様も、ご健勝でありますように…。

感想はこちらvv めるふぉvv  

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